ササユリ




  
数年前御在所岳でササユリにあった。
とてもなつかしい気がした。
それまでこの花の咲く時期に来た事がなかった。
その時、御在所岳にササユリが咲くことを初めて知った。


それはササユリとの何十年来の再会だった。


二十三歳で親の勧めで結婚。
慣れない土地で周りは知らない人ばかり。
見合いなので相手のこともよくわからない。
古風なつきあいが多い土地柄。
何一つ自分の思うようにならず、しっかり者の義母に気を使う毎日。
現代版「おしん」だった。
私は体調を崩すほど・・・
気が弱いし、人見知りだし・・・
「なんでここに居るのかな。うちに帰りたい。」
なんて子供みたいな事を考えていた。



兼業農家で夫は土日は義母の手伝い。
昔話に出てくるような孝行息子。
愚痴一つ言わず働いている。
外に出かけることもままならず・・・
私は自分が想像していた生活と余りにもかけ離れている生活に疲れ果てていた。
ある日農作業から帰ると「はい。」と一輪のササユリをくれた。
はじめて見るササユリは淡いピンクが優しく可憐でいい香りがした。
ここにはこんな綺麗な花が咲くんだ。いい所なんだ。
その時、ここから逃げ出す事ばかり考えている自分ではいけないと気付いた。
そしてササユリから「頑張れ、応援するから。」と言われた気がした。
山に咲くこのササユリのように強くなろうと思った。
嫁いだばかりの初夏だった。



長い年月が経ってササユリに再会。
それは二十三歳の私との出会いでもあった。
今は義母もいないし、子供も大人になった。
でも花はあの時のまま。
いい香りのまま。


なぜか私はササユリが好き。